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水戸地方裁判所 昭和54年(ワ)255号 判決 1981年2月03日

原告

加藤とり

ほか六名

被告

横山京子

ほか一名

主文

1  被告らは各自原告加藤とりに対し金二〇二万七三九一円、原告小林清美、同加藤正美、同加藤博美、同加藤好美、同加藤奉美、同加藤克美に対しそれぞれ金二八万二八〇四円及び右各金員に対する昭和五三年一〇月二二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求はいずれも棄却する。

3  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告ら、その余を被告らの負担とする。

4  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告加藤とりに対し金二四五万四七五七円、同小林清美、同加藤正美、同加藤博美、同加藤好美、同加藤奉美及び同加藤克美に対しそれぞれ金五七万一五八五円並びに右各金員に対する昭和五三年一〇月二二日以降各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの被告らに対する各請求はいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (事故の発生)

(一) 発生日時 昭和五三年一〇月二一日午前四時二〇分頃

(二) 発生場所 水戸市中央二丁目六番二七号先路上

(三) 加害車両 被告横山京子運転の普通乗用自動車(以下被告車という。)

(四) 被害者 亡加藤次雄(以下亡次雄という。)

(五) 態様 被告京子は居眠り運転のため、全く前方注視を欠いたまま被告車を運転進行中亡次雄に無制動のまま追突

(六) 結果 亡次雄は頭蓋骨骨折等のため、同日医療法人誠潤会城北病院において死亡

2  (被告らの責任)

被告京子は、居眠り運転のため前方注視を全く欠いて被告車を運転し、本件事故を惹起したものであるから、民法七〇九条により、被告横山継男は被告車を保有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という。)三条により、それぞれ本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

3  (損害)

(一) 逸失利益 五二六万四二七一円

亡次雄は、死亡当時就業していなかつたが、健康に恵まれ、働く意思と能力をもつており、このような場合自賠法による保険金支払実務では、当然に死亡当時の年令別平均給与額(本件の場合は、月収九万一八〇〇円)で稼働可能期間の逸失利益を保障しており、本件においては、右基礎のもとに生活費を控除し、かつ中間利息を控除した表により三一三万円となつている。

さらに、亡次雄は生前に拠出した掛金によつて国鉄年金二三四万〇六〇〇円と厚生年金五〇万四〇〇〇円を受けていたが、同人の死亡後はその二分の一の額が配偶者に支給されるので、亡次雄の平均余命一一年に対するホフマン係数八・五九〇、生活費控除を四〇パーセントとして計算すると、亡次雄の年金逸失額は二一三万四二七一円となる。

算式 (2,340,600+504,000)×0.6×8.590-(1,206,300+252,000)×8.590=2,134,271

従つて亡次雄の逸失利益は、右両者の合計五二六万四二七一円となる。

(二) 慰謝料 九〇〇万円

亡次雄は、一家の柱として原告ら妻子の生活の支えとなつており、その支えを突然失つた原告らの悲しみは、原告とりについては三〇〇万円、その余の原告らは各一〇〇万円を下らない金額によつて慰謝される。

(三) 葬儀費用 五〇万円

(四) 治療費(受領ずみ) 二三万六八〇〇円

(五) 弁護士費用 五五万円

原告らは、被告らと円満な示談交渉を試みたが解決に至らず、やむを得ず本訴を提起するに至つた。そのための弁護依頼にあたり、着手金として一五万円、成功報酬として四〇万円の支払を約した。

(六) 損害の填補及び相続分に応じた分割

原告とりは亡次雄の妻として三分の一、その余の原告は子として各九分の一を相続したので、逸失利益、葬儀費用及び弁護士費用については右相続分に応じてこれを分割すると、原告とりの合計額は二一〇万四七五七円、その余の原告は各七〇万一五八五円(円未満切捨)となり、これに各自の慰謝料額を加え、これより原告らが自賠責保険から支払を受けた九四三万円を、被告とりについては、二六五万円、その余の原告については各一一三万円として充当すると、結局原告とりの損害は二四五万四七五七円、その余の原告らは各五七万一五八五円となる。

4  よつて被告らに対し原告とりは二四五万四七五七円、その余の原告はそれぞれ五七万一五八五円及びこれに対する昭和五三年一〇月二二日以降各支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、被告京子が居眠り運転のため前方注視を欠いて、亡次雄に無制動のまま追突したことは否認するが、その余は認める。

2  同2の事実中、被告継男が被告車を保有していたことは認めるが、その余は争う。

3(一)  同3の(一)の事実中、年金逸失額及び本件について自賠責保険金の逸失利益の査定が三一三万円であつたことは認めるが、その余は否認する。

自賠責保険の査定では平均給与額によつて算定される逸失利益を原則として保障していることは事実であるが、右は自賠責保険の社会保障的役割と大量の定型的処理の必要性とから認められているもので、交通事故による損害賠償はあくまでも現実収入額の減少の填補が原則で、この立証が不能もしくは困難な場合に初めて平均給与額による算定がなされるものである。従つて年金による現実収入額の主張、立証のなされた本件においてはそれによるべきで平均給与額による算定と重複した請求を許すべきでない。

(二)  同(二)の慰謝料額は、多くとも総額七〇〇万円をこえるべきでない。

(三)  同(三)は争う。

(四)  同(四)は認める。

(五)  同(五)は、支払を約した金額は不知、その余は認める。

(六)  同(六)の事実中、原告らが自賠責保険より九四三万一八〇〇円の支払を受けていることは認める。

三  抗弁(過失相殺)

本件事故現場は、水戸駅南方面から千波湖方面に通ずる通称「駅南通り」の逆川にかかる中橋上で、右道路は歩車道の区分があり、かつ直近に横断歩道があるところ、亡次雄は被告京子の進行道路を突如左方から右方に向け斜めに横断したため、同被告はこれを避けきれず追突したものである。仮りに横断中でなかつたとしても、直近に横断歩道が存するにかかわらず、漫然車道センターライン寄りを走行もしくは歩行していたものであるから、本件事故の発生につき亡次雄にも重大な過失があり、その過失割合は三割以上である。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実は、事故の態様を除いて当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第六号証ないし第一七号証、被告横山京子(後記認定に反する部分を除く。)、原告加藤とり各本人尋問の結果を総合すれば、次のような事実が認められる。

1  本件事故現場は、水戸市役所から文化センター方面にほぼ東西に走る幅約一三メートルのアスフアルト舗装された道路上で、右道路はほぼ直線で歩車道の区別があり、センターラインもひかれているが、西側文化センター方面に向つて若干上り坂となつている。事故当時は、附近に外灯もあり明かるく、見通しも良く、交通量も少なかつた。

2  亡次雄は、当日いつものように早朝マラソンのため午前四時頃に家を出て本件事故現場にさしかかり、千波湖方面に出るため北側歩道から車道を横断して反対側歩道に出ようとした。一方被告京子は、当日午前四時過ぎ起床し、時間的余裕がなかつたためガウンを着たまま被告車を運転して国鉄に勤める夫(被告継男)を国鉄水戸駅南口まで送つてその帰り道に、時速約四五キロメートルで千波湖方面に向け西進して本件事故現場にさしかかつた。被告京子は、事故現場の手前で早朝の起床のため頭が重く、眠けを催したため、大きな「あくび」をして、手で顔面を押えながら、下を向いたまま事故現場の中橋のところまで運転進行して来たところ、突然車の左前方に亡次雄が道路を横断しているのを発見したが、避ける間もなく、車の左前方を歩道から約四・四メートル車道に入つた地点で亡次雄の右側面に衝突させた。このため、亡次雄は全身打撲、骨折等の傷害を受け、事故後三時間位後に死亡した。事故直後なされた実況見分調書によると、被告車のスリツプ痕は衝突地点を若干過ぎたところから始まつている。

右認定に反する被告京子本人尋問の結果は信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  右認定によれば、本件事故は被告京子が早朝起床したことによる眠けと交通閑散に気を許し、前方の注視を一時的とは言え全く欠いた重大な過失により亡次雄を衝突直前に至るまで発見しなかつたことによるものと認めるのが相当である。なるほど、亡次雄は横断歩道でないところを横断していたが、亡次雄としては被告京子が通常どおり前方を注視しておれば、亡次雄に気づいて充分避けうる余裕と道路状況にあることを信頼し、右信頼は当時の状況の下では充分理由があることが前掲認定の諸般の事情から推認できるから、亡次雄に過失があつたものとは認め難い。

してみると被告京子は民法七〇九条により、被告継男は被告車の保有者であることが当事者間に争いがないから、自賠法三条により本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。

三  損害額について判断する。

1  逸失利益

成立に争いのない甲第二、三号証、証人小林隆雄の証言、原告とり本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、亡次雄は昭和三九年国鉄を退職し、それ以後保安工業に一三年間勤めていたが、事故当時は働らいておらず自適の生活を送つていたこと、当時亡次雄は七〇才であつたが、極めて健康で毎朝マラソンを日課としていたこと、収入としては国鉄年金を二三四万六〇〇円、厚生年金を五〇万四〇〇〇円合計二八四万四六〇〇円受取つていたが、その死亡により配偶者に遺族年金としてその二分の一(ただし、国鉄年金は一二〇万六三〇〇円)が支給されること、原告とりは亡次雄の妻、その余の原告六名はいずれも子であることが認められる。

右認定事実に、亡次雄の平均余命と認められる一一年のホフマン係数八・四九〇、生活費控除を三五パーセント(前記認定事情のもとでは、生活費は三五パーセントが相当であると認める。)として亡次雄の死亡による年金逸失額の現価を原告主張の方式に従つて計算すると三三五万六〇二七円となる(喪失年金額については、当事者間に争いがないが、逸失利益全体について争いがあるので、右年金額には拘束されないと解する)。

原告らは、自賠責保険支払実務に準じ右年金喪失分以外に、稼働可能期間の年令別平均給与額による逸失利益を加算すべき旨主張するが、成立に争いのない乙第二六号証によれば、本件につきなされた自賠責保険支払は、両者比較して高い方で算定しているに過ぎず、両方を加算していないことが認められ、本件のように現実収入額による逸失利益の算定が可能の場合には、それによるのが相当と認められるので、右主張は採用しない。

2  慰謝料

本件事故の態様、亡次雄の地位、身分及び原告とり本人尋問の結果により認められる被告京子の本件に対する態度に関し原告らが抱いている不満感情その他前記認定の諸般の事情を総合して、原告とりについては三〇〇万円、その余の原告らについてはそれぞれ一〇〇万円を相当と認める。

3  葬儀費用亡次雄の地位、身分等を考慮して五〇万円が相当であると認める。

4  治療費二三万六八〇〇円は、原告らにおいて受領ずみであることは、その自認するところである。

5  自賠責保険による損害填補 九四三万一八〇〇円

成立に争いのない乙第二六号証によつて認められる。

6  弁護士費用 三〇万円

右1ないし3の合計から、5を控除すると三七二万四二二七円〔更正決定三四二万四二二七円〕となること、本件訴訟の難易等を考慮して、弁護士費用のうち三〇万円が本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

7  相続分による分割

前記認定によれば、原告とりの相続分は三分の一、その余の原告らはそれぞれ九分の一と認められるので、逸失利益、葬儀費用及び弁護士費用は、右割合により分割(いずれも円未満切捨)し、これに各原告の慰謝料を加えると原告とりは、四三八万五三四一円、その余の原告らは各一四六万一七七九円となるから、これより自賠責保険金九四三万一八〇〇円のうち、四分の一の二三五万七九五〇円を原告とり、八分の一の一一七万八九七五円をその余の各原告らの損害合計より控除すると、原告とりの損害は、結局二〇二万七三九一円、その余の原告は各二八万二八〇四円となる。

四  よつて原告とりの請求は、二〇二万七三九一円、その余の原告らの請求は各二八万二八〇四円及び右各金員に対する不法行為の翌日から各支払ずみまで民事法定利率年五分の遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 早井博昭)

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